【報告】2011野沢フォーラム シンポジウム

アルペンスキー「ソチ五輪への課題」

       

シンポジスト 片桐幹雄

【プロフィール】1980年、スイスのウェンゲンの世界最長4200mのコースで、0.55秒差で13位となり、それまで日本のダウンヒルは世界では通用しないといわていた迷信を打ち破る。世界で活躍するスキー選手を輩出している野沢温泉スキークラブで、当フォーラムの幹事をお引き受けいただいた森敏氏の先輩にあたる。野沢温泉村のホテル「サン・アントン」オーナー。


アルペン競技では、日本は残念ながら2つのオリンピックでメダルを取り逃 しています。国内の経 済が振るわない中、実業団での活動が不自由になってきている、資金 的に厳しいな か、どのようにしてメダルを取ったらよいのか、日々、考えています。

そんな中、今シーズン、世界選手権で湯浅直樹選手が6位に入 賞しました。佐々木明選手もこれまで何度かワールドカップの表彰台に立っています。男子アルペンは、回転に特化すること で勝つこができた。もちろん、ピラミッド型に選手の層を築いていくことが理想ではあります。しかし現状では小数精鋭でやらざるをえない。小数精鋭でも勝てば資金が得やすくなる。そのことが、将来的に ジュニアの育成にもつながるのです。

3年後のソチのオリンピック目指してなにをするべきなのでしょうか。世界の競技現場では情報化が進んでいます。どんな情報を手に入れて、どのように選手の練習環境を作っていくの かが大きなテーマになってきています。 例えば、近年のワールドカップのバーンは精密に作られています。硬く て普通には立てない。ストックもささらない。滑った跡がつかないこともある。しかし、消防車で水を撒いて固めていた昔のバーンとは違って、グリップは効くようにで きているのです。これは、バルカンという機械を使って、雪面から水を注入してバーンをつくるからです。バルカンからは渦巻状になった水が雪面に入り込んでいく。水は凍って氷の柱にな る。このような氷柱を雪面に網目状に作ってバーンにしてあります。氷の柱の上を滑るようなわけで、グリップが効きます。このようにしてつくられたバー ンで練習し、慣れておくことがメダルにつながる。逆にいえば、このようなバーンを準備できなければ勝つことは難しくなってきているわけです。

今、日本のチームは南半球のニュージーランドで練習しています。 ヨーロッパの国からはアルゼンチンなど南米に行っている。春や秋に、どこの氷河がどういう状態になっているのか、いつ、どこに行けばふさわしい練習がてきるのか、情報をもっていることが競技の技術以上に大切なこととなってきています。この点、オーストリアチームの情報力はすばらしいものてす。彼らは練習場の下見に南アメリカまでも行っています。気象の状況や過去のデータを元にして、例えば年末頃のバーンの状況がとうなるのか予想している。もし、状況が悪いようならすぐに方針を変えて帰国する。彼らにはまず資金面で負けます。

11月は、練習場を探すことが最も難しい時期です。ヨーロッパも氷河の上に雪が積もってしまいます。下の方のスキー場の人工雪のコースでやるのか、北欧まで行くのか、アメリカ大陸に行くのか、アメリカでも3500m〜4000mの高さの場所になってしまいます。ふだんはアメリカ大陸の3500mくらいのところに行こととが多いのですが、シーズン直前に高地でのトレーニングでよいのか、といった問題もあります。タイムリーに情報を得ることが重要です。11月の適地は中国の北大湖(ペイタイコウ)などにもあるかもしれません。

タイムリーな情報とともに大切なのが、人脈です。私はコーチングを20年以上やっていますが、私のアドレス帳には世界中のスキー場の支配人の名前、コース係長、地域のリーダーの名前が40カ国分くらい書いてあります。現地でバーンがとれるのか、他のチームが入っている時に入れてもらえるのか。そういった情報を聞けたり、バーンを一緒に使わせてもらったりできるように、日頃から種をまいておくことが大切です。

長野オリンピックの時、ダウンヒルはトップのオーストリアチームにも難しいコースでした。日本チームはオーストリアチームといっしょに練習しました。日本の選手にとっても刺激になりますし、スタッフ同志での意見交換もできました。こうすることで、本番の時にもお互いに友だちとして「やあ」と声をかけ合ってやっていけました。

今、若い選手たちが海外に練習に行ったり試合に出たりすることが、経済的に難しくなってきています。こうした中で、なんとか国内に本番と同質のバーンが作れないものでしょうか。アルペンの大回転は40〜50ゲートが基準になっていますが、それほどの距離はとれなくても、20ゲートでも練習できることが必ずあります。スタート前に負荷をかけるとか、ゴール後に負荷をかけるとかして、短いコースでも本番と同じ状況を作りだしてやれるでしょう。国内にバーンができれば日本選手が勝てるかもしれない。強い外国チームだって長いコースを確保するのは難しいのてすから。

質議応答

川初 さきほど選手育成の背景となる「国力、経済力」の話がでました。今は円高で日本から外国には行きやすい状況だと思うし、ユーロッパはユーロ安で大変なのではないかと想像しますが・・。

片桐 オーストリアでは国技としてアルペンスキーをやっています。トップ選手は日本のプロ野球選手以上のネームバリューがありますし、競技会には5万人集まったりします。日本のスキー選手の名前でも、日本人以上によく知っていたりする国です。そうした国民的な背景があって、選手たちがいるわけです。

(当日のメモを元に事務局で文章化しています。)